目の上数センチ

一日で飽きる恋、二日で抜けるアルコール、三日で忘れる二人

この差を埋めるなら

いつも少し高いところにいる

そんな気がしていた

でも置いてかれているなんて思ってもいなかった

 

「そうなんですか〜〜、あ、急いでるので、失礼しま〜〜す」

電話越し、よそ行きの声になるといつも半音上がる君のことだ

ライブ会場なんかに足を踏み入れたものなら全音どころではなくどこまでも甲高い音で叫び散らしていた

出会ったあの日も半音高くて

僕は惚れたのは紛れもなく、その、「よそ行き」の人だった

 

いつも君は1つ上を行っていた

2人で出かける時にはヒールを履いていて、

少し踵を上げるだけでこんなにも変わってしまうものなんだと思った

でもたまに見せるぎこちない歩き方が、

それもそれで、やっぱりよかった

 

2人で過ごすようになってからはスリッパみたいなナイキのサンダルしか履かなくなってしまっていて、

たまにあの頃が懐かしくなったりした

たまにはヒール履かないの?の質問にはいつも

「疲れる」の一点張り。

もちろんその声も、全然よそ行きなんかじゃない

そりゃそうですよね

 

でもそれも今となっては過去の話

君はいつも一つ上を行っていた

気づかないうちに何処かに行ってしまった

 

「疲れるから」

と背伸びをしなくなったあの人は

 

 

もうすでに疲れてしまっていたのだ